『クリトン』 プラトン(著) 久保勉(訳) 岩波文庫 1927
『クリトン』
クリトン「ソクラテス、明日は君の一生の最後の日となるより外ないわけだ。」
クリトン「最愛のソクラテスよ、今でも構わないから、どうか僕のいうことを聴いて遁げ出してくれ。」
クリトン「君はまさか僕やその他の友人の身の上を心配しているわけじゃあるまいね」
ソクラテス「そうだよ、クリトン、それも僕の心配の一つだが、まだ外にもたくさんあるのだ。」
クリトン「君は自ら救うことが出来るくせに我とわが身を犠牲にしようとしているのだ。」
ソクラテス「親愛なるクリトンよ、君の熱心は大いに尊重に値する」
ソクラテス「僕は、今が初めてではなく常々も、熟考の結果最善と思われるような主義以外には内心のどんな声にも従わないことにしている」
ソクラテス「よく考えてみてくれたまえ」
ソクラテス「尊重に値するのは有益な意見であって、有害なものではないのだね。」
クリトン「そうだ。」
ソクラテス「有益なのは智者の意見で、有害なのは無智者の意見ではあるまいか。」
クリトン「きまっているじゃないか。」
ソクラテス「素人である多衆の意見を尊重するとすれば、その結果彼は禍を蒙りはすまいかね。」
クリトン「無論さ。」
ソクラテス「愛する友よ、して見るとわれわれは多衆がわれわれについていうことをあまり気にせずに、ただ正と不正との専門家が、あの一人だけが、そうしてまた真理そのものが、いうことを顧慮しなければならないわけだね。」
クリトン「それももちろん明らかだ」
ソクラテス「一番大切なことは単に生きることそのことではなくて、善く生きることであるというわれわれの主張には今でもかわりがないか」
クリトン「むろんそれに変わりはない。」
ソクラテス「また善く生きることと美しく生きることと正しく生きることとは同じことだということ、これにも変わりがないか」
クリトン「変わりはない。」
ソクラテス「僕がアテナイ人の同意な同意なしにここから逃げ出そうと企てることは正しいかそれとも正しくないか」
私見
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