『ゴルギアス』 プラトン(著) 加来彰俊(訳) 岩波文庫 1967
『ゴルギアス』
カルリクレス「とにかく、今しがたあの人は、その場に居合せた者のだれでも、何なりと好きなことを、質問するようにと命じていたのだし」
ソクラテス「さあ、それでは、カイレポン、あの人にひとつ訊ねてみてくれないか。」
ソクラテス「何者であるかということを。」
ソクラテス「ゴルギアス、どうか、あなたご自身で言ってみてください、あなたが心得ておられる技術は何であるか、したがって、あなたを何と呼んだらいいのかを。」
ゴルギアス「弁論術だよ、ソクラテス。」
ゴルギアス「そうだ、それも、すぐれた弁論家」
ソクラテス「あなたは、ほかの人たちをも弁論家にすることができるのだと、こうわれわれは言ってよろしいのでしょうか。」
ゴルギアス「そのことこそ、ここだけではなく、よその土地においても、わたしが公言していることなのだよ。」
ソクラテス「ところで、どうでしょうか、」
ソクラテス「一方は質問し、他方は答えるというやり方を、これから先も続けてもらえるでしょうか。」
ソクラテス「質問には短く答えることにきめてください。」
ゴルギアス「わたしより短い言葉で言える者は、だれ一人あるまい」
ソクラテス「弁論術というのは、およそ存在するもののうちの、何に関する技術なのですか。」
ゴルギアス「言論について」
ソクラテス「どのような種類の言論のことですか」
ソクラテス「弁論術というのは、かならずしもすべての種類の言論に関係があるわけではないのですね。」
ゴルギアス「むろん、そうではない。」
ソクラテス「しかしそれは、人びとを話す能力のある者にするのですね。」
ゴルギアス「そう。」
ソクラテス「その話す事柄について、考える能力のある者にもするのではないですか。」
ゴルギアス「もちろん、そうする。」
ソクラテス「ところで、どうでしょうか。」
ソクラテス「技術のどれもが言論に関係があるのであり、そしてその言論というのはわれわれは、ちょうどそれぞれの技術が扱っている当の事柄にかかわるものなのです。」
ゴルギアス「そのようだね。」
ソクラテス「それならば、なぜいったいあなたは、その他のもろもろの技術を、それらはどれも言論に関係があるのに、弁論術とは呼ばないのですか。」
ゴルギアス「その他もろもろの技術の場合には、」
ゴルギアス「行為にかかわるのであるが、」
ゴルギアス「弁論術には、」
ゴルギアス「すべて言論を通してなされる」
ソクラテス「われわれはいろいろな技術をもっているのですね」
ゴルギアス「そうだ。」
ソクラテス「技術全体の中で、」
ソクラテス「言論を全然必要としないで、その技術の働きは、黙っていても遂行されるものがいくらかあるわけです。」
ソクラテス「あなたが、弁論術はそれとは関係がないのだと主張しておられるのは、そういった種類の技術のことをさしておられるように思えるのですが、それとも、ちがいますか。」
ゴルギアス「いや、これはほんとうに見事な理解だよ、ソクラテス。」
ソクラテス「ところが他方、技術の中のもう一方の種類のものは、言論によって全部をなしとげて、それ以外に実際の行動を必要とすることは、全然ないといってよいか、あるいはあるとしても、ごく僅かな程度にとどまれるものです。」
ソクラテス「弁論術とは、そのような種類の技術にぞくするものであると、こうあなたは言おうとしておられるように、わたしには思えるのですが。」
ゴルギアス「それは君の言うとおりだ。」
ソクラテス「しかしわたしとしてはあなたが弁論術と言おうとしておられるのは、数論のことでもなければ、幾何学のことでもないと考えているのです。」
ゴルギアス「君はほんとうに正しく理解してくれるね。」
ソクラテス「弁論術とはまさに、言論によって全部のことをなしとげて、その仕事を完成する技術にぞくしているわけですからね。そうではありませんか。」
ゴルギアス「そのとおりだ。」
ソクラテス「では、その技術は、何を対象にしているのか」
ゴルギアス「一番重要で、一番善いもの」
ソクラテス「あなたが人間にとっての最大の善いものだと言われているもの、」
ソクラテス「そのものとは、いったい何であるか」
ゴルギアス「わたしの言おうとしているのは、言論によって人びとを説得する能力があるということなのだ。」
私見
後日更新
コメント